御山登拝、滝見の巻

『御膳谷奉拝所』から、一路『清明の滝』へ向ふ。道は下り坂になつてゐる。右脇には小さな沢がチョロチョロと流れてゐて、辺りは欝蒼とした林を呈してゐる。暫く降つて行くと足下に黒光りする何かがカサカサと這つてゐた。連れは興味津々に見詰めてゐたが、お世辞にもいいものを見附けたと云ふ気分にはなれなかつた。多分id:BlueMoonさんが見たら大変な事になつてゐたと思はれる。更に降つて行くと、下のはうにお塚の集合体が見えて来た。随分と下のはうに下りて行つたと思ふ。お塚を分け入つて行くと、奥のはうに2本の滝が縦線になつて落ちて行く様が見えて来た。脇には小さなお不動さんが安置されてゐる。滝壷は丁度小さな舞臺のやうで、あそこで滝に打たれて禊をする事が出来るやうな仕掛けになつてゐるのだらう。巧く出来たものだ。暫く滝見をして、移動しようとしたら、一寸した装備をした男が此処を通過して行つた。小さな橋を渡つて其の侭獣道のはうへ左へ曲つて行つてしまつた。何処へ行く積りなのか。此方は小さな橋を渡つて「立入禁止」の立て看板を突つ切つて右に曲つて坂道を登るはうを選んだ。右手に沢を見乍ら少し登つた処に又滝音がするので、一寸道を外れて滝の在るはうへ行つてみた。建物の裏の滝の入口には一升瓶が忘れられたやうに置いて在る。今度の滝は、一本だけだつた。矢張り禊が出来る舞臺になつてゐる。一升瓶の所に戻つて建物の裏の路を花や生物を見乍ら登つて行く。足場の悪い道、細い階段、過ぎると赤鳥居の並ぶ様が見えて来た。『傘杉社』では、茶屋で外から来たお客の接待をしてゐたやうだつた。お客はもう出発するらしい。一寸歩いてゐると後のはうから何やら声が聞えて来る「お客さあん。忘れ物よお」をばちやんが大声で追つて来るが、お客さんは気が附かない。連れはお客さんを引止めて、私はをばちやんの元へ。無事に忘れ物を手渡し、目出度し目出度し。
ほんの一寸歩いて、やつと外周路に戻つて来た。『薬力社』に着くと其処にも滝音がするので、滝見をしてみた。足下にも水の流れがあるので、靴が気になつてしまつた。近くのお塚では何やらお経を唱へてゐる人がゐる。さう云へば、今迄のお塚でもお経を唱へてゐる人がゐたやうな。「神仏分離令」が出たのは明治の初年、以来、神と仏は別々に崇められるやうになつて久しいが、此処のお山では神仏習合が今も根附いてゐる。其処には切つても切れない信仰の状況があるんだらう。外周路の先の道を見る。上り坂になつてゐる。連れは疲れてゐるらしく、先へ行くのは断念した。近くの茶屋の店先で連れは何かを見附けて楽しんでゐた。そして、外周路を元来た道に戻つて行く事にした。随分前に通過した『四ツ辻』に出て、見晴しのいい所で休む事にした。連れは疲れたのか、ベンチで横になつてしまつた。私は其の様子を眺め乍ら疲れを癒してゐる。一寸涼しげな風が吹いてゐる。時間が止つた。
けふは此処迄。