石切さんの帰り路

「夢観音」を後にして、民家の間の坂道を降りて行く。連れは民家の生垣から顔を出してゐる花に目を奪はれ乍ら、ゆつくりとした足取りで進む。私も一緒になつて進む。一寸下つた所に小さな社が在つた。見ると大きな石に仏様のお姿が線状に彫られてゐる。横に在る説明書きには、弘法大師か誰かが爪で彫つた仏様だとされてゐたが如何なものか。でも、可愛らしい仏様だつた。
暫く降りて行くと一寸見晴しのいい所に出て其の先に鉄道のガードが望めた。此処へ来て失礼な事を言つてしまつたと今悔いてゐる。ガードを潜ると其処には乾物を七輪で焼いて売つてゐる屋臺のいい匂ひがして来た。連れは全然知らない振りをしてガード先を右に曲ると一言「何が霊感なんだらう。霊感を売つてゐるのかな」なんて呟いてゐた。見ると線路向ひの建物の2階に大きく「霊感」と書かれてあつた。怪しい。
暫く線路伝ひを歩いて行く。大きな鳥居を越えると其処は石切駅だつた。連れは帰りの列車で安心した顔附きで寝てゐた。