「上之社」にて

石段を登つて行くと、其の上のはうの左手に手水舎が見えて来た。お手水をして後少しの石段を登ると、1本の「お百度石」が出迎へて呉れた。散々探したが、此処の社には「お百度石」は1本しか無かつた。と云ふ事は、本来、「上之社」のこの「お百度石」と「本社」の「お百度石」の間を百回廻つて願掛けをするのが正しい「お百度参り」なんだと思ふ。なんとも気の遠くなる話ではあるが、此れが出来るのならどんな難関でも突破できると云ふ自信が附くのは間違ひないだらう。
「お百度石」と拝殿の間には何かの石臺が設置されてゐた。注意書を読むと、祭りの時のお神輿が此処に置かれるらしい。あの「崇敬会館」に飾られてゐたお神輿が此処に、凄い事だぞ。「上之社」の狛犬も昭和一桁生れだつたが、拝殿は見た感じ新しく建直されてあまり間が無ささうだつた。お参りをすると、拝殿の手前には蓋の開いたカップ酒が、大神神社と同じ流儀でお参りしてゐる人がゐるみたいだ。境内の脇の社務所で、御朱印を伺つたが、此処では出来合ひの御朱印札しか出して呉れない模様。折角此処まで登つて来たので、其の札を賜る。見た目は「本社」に非常に似てゐるが、御朱印其の物や神社名称に「上之社」が這入るなど細かい所に相違が見られる。
境内を散策する事にした。拝殿左脇を潜つて少し坂を下ると一寸した池が在つた。其の手前に小さな祠が在つて、願掛けが成就したお礼に陶器の小亀を水に落しておくらしい。実は生の亀も見掛けたのだが、連れが写真機を取出す前に池の中に隠れてしまつた。残念だつたね。
道なりに進んで行くと、「石切登美霊社」と云ふまるで新興宗教を思はせる佇まひの神社が在つた。屋根は出雲造りのやうだが、其の下はサッシになつてゐたり、其の建物の中に這入つてお参りする形式であつたりと、よく解らない状態ではあるが、今迄とは別の意味で怪しさを醸し出してゐる。御祭神は饒速日の奥さんの「三炊屋媛」とされてゐる。長髄彦の妹で、可美真手の母である。「変つた神社だね」と連れも言つてゐた。あまりお気に召さなかつたやうだつた。此処を出て、欝蒼とした神社の杜を抜けると先程の手水舎に戻つて来た。今度は違ふ方向の下りの石段を降りて行く。下り切つた所の鳥居の手前に石碑が在る。「石切神社上之宮」と書いた石碑の前で記念写真を撮つた。不図左側を見ると其処には「石切夢観音」なる美術館を彷彿とさせる建築物が、新興宗教の匂ひがプンプンとしてゐた。