大野先生

大野晋さんは私が尊敬する学者先生です。私が大野先生の著作と巡りあつたのは、社会人になつてからだつたと思ふのですが、橋本進吉さんの岩波文庫で、日本語に少しだけ興味を持つた時にもつと知つてみたいと思つて『日本語をさかのぼる』と『日本語の文法を考える』と云ふ岩波新書を手にした時だつたと記憶します。
当時は尊敬と迄は感じなかつたのですが、其の后、福田恆存さんの事を知り、『私の國語教室』を読んで日本語には国語国字問題が存在するのを知つた時、改めて大野先生の著作を手にしてどう云ふ風に先生が捉へてゐるのかを調べてみた時から、「この人は立派な人だ」と思ふに至つたのでした。
先生には物事を正しく見る力があります。人生の目標を早い時期からお持ちで、正しい道を選び、其れに向つて真直ぐに進み、結果的に自分なりの答を生きてゐる間に得る事が出来ました。この人生は大いに学ぶべきものがあると思ひます。
大野先生の人生の目標は、「日本とは何か」と云ふものでした。其の経過の内で色々な業績を上げましたが、其の目標を達成した後に「日本語とタミル語は親戚関係にある」と云ふ学説を導き出してゐます。多分、人生を誠実に歩んで来た結果としての何処かからの贈り物だつたのでせう。感謝しませう。