物と言葉

物は人間がこの世に誕生する以前から存在してゐます。其れは事実です。
又他方、人間は物や事に対して一つ一つ命名して其れを組合せて言葉として表現します。命名されてゐる物事は其の言葉を使つてゐる人達にとつて認知されてゐる内容なのです。ですので、其の物事が或る特定の物事として「生きる」事が出来るのです。
或る時点から、物事を表現する必要が無くなれば、其れは言葉として表現する必要性が無くなり、やがて其の物事を表現する言葉は「死に」ます。言葉が「死んだ」後の人達にとつては、其の言葉を使ふ必要性が無くなると同時に、其の言葉で表現されてゐた物事其のものが彼等には認知されなくなると云ふ事です。
物は人間がこの世に誕生する以前から存在してゐます。其れは事実です。然し乍ら、言葉に表現され得ない物事は認知され得ません。目の前に物事が存在したと言つてもです。更に、言葉を使ふ事其れ自体が区別の作業である事を認識しなければなりません。